そもそも、なぜ野球肘がおきるのでしょうか?
それは投球時にかかる肘関節の外反力が主な原因とされています。
肘関節は側方への動揺性を防ぐために内側側副靭帯が静的安定機構として働きます。その内側側副靭帯は33Nmの強度(引っ張る力)を加えると破断すると報告されています。
これに対して投球時(late cocking期からacceleration期)に肘の内側にかかる力は64Nmです。
こう聞くとボール投げると全員肘ケガするんじゃない?と思いますよね・・・
安心してください!肘の内側には靭帯だけではなく肘の内側につく筋肉(回内筋群)が動的安定機構として働き靭帯のサポートを行ってくれます。
この静的安定機構と動的安定機構がうまく働くことによって強い力でボールを投げれているんですね!
逆に言うと、投球フォームの乱れなどにより肘にかかる力が64Nmより大きくなったり、頻回の投球により内側の筋肉が疲労することで簡単に肘のケガにつながってしまうということはイメージしやすいと思います。
さて、野球肘が生じるイメージを持ってもらったところで次は内側の野球肘と外側の野球肘について説明します。
野球肘(baseball elbow)は大きく『内側型』『外側型』『後方型』に分けられます。ここでは主に内側、外側について記載します。
内側型野球肘
野球肘の中でも最も占める割合が多いのがこの『内側型野球肘』です。
この内側型野球肘には内側上顆裂離骨折・内側上顆骨端線損傷・内側側副靭帯損傷などが挙げられます。
いずれも肘の内側の組織の損傷ではありますが、年齢によって障害が起きる組織が変わってきます。
その理由としては子供の肘の骨の成長に関係します。
左図の水色は骨端軟骨を表します。
骨端軟骨は周囲の骨組織に比べて弱く損傷しやすくなっているので若年層の野球選手には内側上顆の骨端線損傷や裂離骨折が発生します。
逆に右図のように骨化が完成すると骨よりも内側側副靭帯の方が牽引ストレスに負けてしまい内側側副靭帯損傷を起こしやすくなってしまいます。
この内側野球肘により肘の静的安定機構が破綻することで肘関節の不安定性が生じ、後述の外側型にも影響を及ぼしてしまします。
外側型野球肘
外側型野球肘といわれるものは主に(上腕骨小頭)離断性骨軟骨炎(OCD)といわれる病態です。
これも内側と同じく投球時に加わる肘への外反力が主な原因です。
肘が外反することで肘の内側は牽引という引っ張られる力が加わりますが外側は圧迫力(剪断力)が加わります。
このストレスにより上腕骨の外側の軟骨下骨で損傷が起きてしまうのが肘OCDです。
(兄弟で発症しやすいや、サッカー選手や非投球側にも肘OCDは発症する・・・などの報告もあることから、外的なストレス因子だけではなく内的な因子も考えられています)
肘OCDは一般に『透亮期』→『分離期(前期・後期)』→『遊離期』と進行します。進行すると手術が必要となったり、肘の変形や遊離体(いわゆる関節ネズミ)が肘関節に悪影響を及ぼしてしまいます。(投球だけではなく日常生活に支障があることもあります。)
予防と治療
野球肘の要因として体全体の柔軟性、体の協調性、下半身の筋力、前腕屈筋群の筋力、投球フォームなどなど・・・様々なものが挙げられます。少なからずこれらの項目が一つでも欠如してしまうと野球肘のリスクは上がってしまうので、予防のためにもこのような弱点を認識し克服することが絶対条件となります。
治療の柱はもちろん患部に負担をかけないということなので投球中止が必須ですが、その間は何もできないというわけではありません。上記のようにフォームを改善したり、患部外のトレーニング行うということが再発予防にもつながります。
当院ではLIPUSと言われる超音波の機器を用いて患部の早期修復を促しつつ、メディカルチェックやフォームチェックを行い積極的に野球肘に向き合っていきます!
投球時の肘の痛みや野球肘を予防したい!という方は一度ご相談ください!